眼炎症診療で経験した“パラダイムシフト”

ベーチェット病のぶどう膜炎(ベーチェット眼症)では透明な眼の中が炎症で濁ってしまう、とてもひどい病気です。

九大ぶどう膜外来で園田康平先生・有山章子先生がたくさんのベーチェット病ぶどう膜炎患者さんをみていらっしゃるところに、研修医のころから参加させていただきました。

ステロイド・免疫抑制剤内服治療を行い、治ってきたころ(緩解期)に発作を起こしステロイドの眼注射(テノン嚢下注射)→視力低下:繰り返すうちに眼の組織が徐々にダメージを受けてきて大きな視力低下(社会的な失明状態)。
そのころ九大ぶどう膜外来では顆粒球吸着療法(アダカラム)について、効果の検証を行っていました。

免疫学の大学院に入学した2003年頃、難病のベーチェット眼症の様子を描いたさだまさしさん原作の映画「解夏」が上映されました。ロケ地の長崎市内も懐かしく、映画館に見に行った記憶があります。

ステロイド・免疫抑制剤は効果がある反面、長期使用によって様々な副作用も引き起こしてしまいます。眼の炎症がなぜ起こるか、ステロイド以外で治せる可能性等について多くを考え発表をおこないました。

ベーチェット病の病態では、炎症性サイトカイン(細胞から分泌されるたんぱく質)の腫瘍壊死因子(TNF)が悪玉として影響することが知られています。

炎症時に体内で産生されるTNFをおさえこむ生物学的製剤(インフリキシマブ)は、2007年から保険適応となりました。

帰国後ぶどう膜外来に復帰し インフリキシマブの治療によりほぼ炎症がなくなっているたくさんの患者さんをみて、文字通り隔世の感がしました(“パラダイムシフト”)。

しかし2か月毎に大学病院内科外来で点滴を受ける患者さんの負担も大きいものです。

そのころ治験が行われていたアダリムマブは2016年に承認、自宅で皮下注射により効果を得ることができ利便性は更に高まりました。

福岡市内で行われた昨日の眼炎症セミナーでは、東京の杏林大(杏林アイセンター)の慶野博先生の講演を聴くことができました。ぶどう膜炎の臨床・研究を専門とする医師がいる眼科は全国でも少数で、慶野先生には眼炎症学会・ボストンその他でお会いする機会が多く沢山のことを教えて頂きました。

講演より:

・5年後の視力予後の結果より、インフリキシマブは早い時期からの導入を推奨する。

・アダリムマブは有効も、症例の蓄積で適正な使用基準の確立が必要。

・使用前スクリーニングの重要性:(感染症・がんなどの副作用)。

感染症と戦う細胞/体の中でがん化しようとしている細胞を駆除する細胞にとって、炎症性サイトカインには大事な役割があります(自然免疫の機構)。それをなくしてしまうことで、感染症・がんなどの副作用につながる可能性があります。

眼炎症に対して効果が予想される生物学的製剤はその他にも多数あり、今後の適応拡大が待たれます。

眼の組織は透明性・機能を残したままで治すことが重要と考えます。

そのため眼科専門医による早い判断のもとに、発症早期からの治療が必要です。

現代では素晴らしい生物学的製剤が使える反面、上記の副作用や二次無効(抗体に対する抗体が体内で産生され、効かなくなってしまうこと)は未だに大きな問題として残されています。

また医療経済の観点においても、生物学的製剤の使用は大きな課題となっています。

たける眼科は福岡市地下鉄沿線に位置し、眼科一般診療と併せ 九大病院ぶどう膜外来と連携した診療を行っています。眼の炎症に関する患者さんとも長く関わっていきたいと思います。今後ともどうぞよろしくお願い致します。

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