2018年10月の開院にあたり、当院ではOCTアンギオグラフィー(OCTA、光干渉断層血管撮影)を導入しました。
網膜疾患やぶどう膜炎、緑内障などの研究に携わってきたことから、2017年秋の開院準備中から、OCTAの導入に向けた交渉を続けていました。
OCTAが保険診療の検査として新たに収載されたのは、2018年4月でした。開院は、その約半年後にあたります。
導入当初はRS-3000 Advance2(ニデック)を使用し、その後、超広角眼底撮影のできるミランテに更新しました。

造影剤を使わずに、目の中の血流を映す検査です
OCTAは、腕の血管から造影剤を注射することなく、目の奥の細い血管の流れを画像にする検査です。1回の撮影は数秒程度です。
見ているものは、病気によって違います。
糖尿病網膜症では、ものを見る中心にある血管の途切れ方を確認します。網膜静脈閉塞症では、血管が詰まった先の血流を確認します。
加齢黄斑変性では、本来ないはずの血管を探します。緑内障では、視神経の周りの血管の密度を調べます。
ぶどう膜炎では、炎症が血管に残した影響を見ます。
一方で、OCTAには血管からの「漏れ」が写りません。炎症や新生血管が今どのくらい活動しているかを知りたい場面では、造影検査が必要になることがあります。

これまでは、造影検査が使われてきました
これまで、目の奥の細い血管を調べるには、腕の血管から造影剤を注射し、眼底カメラで撮影する検査(蛍光眼底造影検査)が主に使われてきました。
造影剤には、吐き気や蕁麻疹などの副作用があり、まれにショック状態に陥ることもあります。
検査の前後にも時間がかかり、あらかじめ予約を取っていただく必要がありました。
OCTAは、同じ場所を繰り返し撮影し、血管の中を動く赤血球による信号の変化だけを取り出す仕組みです1。造影剤を使わないため、造影剤の注射や副作用を避けられます。
1回の撮影は数秒程度です。当院では、OCTAのために別の日に検査の予約を取っていただく必要はなく、診察の流れの中でその場で確認できます。

ただし、目の動きや画像の状態によって撮り直すことがあり、撮影条件によっては瞳孔を開く目薬を使います。
OCT、OCTA、眼底自発蛍光:名前は似ていますが、見ているものが違います
「OCT」は、網膜の断面を見て、厚さやむくみを調べる検査です。OCTAは、そこに血流の情報を加えます。
同じ装置で、同じように座って撮影しますが、得られる画像の意味は別のものです。
もう一つ、「眼底自発蛍光(FAF)」という検査もあります。網膜のいちばん外側にある色素上皮という細胞に、老廃物がたまっていないか、細胞が失われていないかを調べる検査です2。
血流を見るOCTAと、細胞の状態を見るFAFは、どちらか一方があればよいというものではありません。病気によって、それぞれの役割が分かれます。
ここで大切なのは、OCTAでは血管からの「漏れ」を直接見ることができないという点です。
血管が写ることと、今その血管から水分が漏れていることは別です。OCTや診察、必要に応じた造影検査を組み合わせて判断します1。

糖尿病網膜症:ものを見る中心の血管を調べます
糖尿病網膜症では、網膜の毛細血管が傷み、血液が届きにくくなることがあります。
当院でよく評価しているのが「中心窩無血管野(FAZ)」です。ものを見る中心には、もともと毛細血管のない小さな領域があります。
その広さや形、周囲の血管の途切れ方を調べます。
FAZが広がっているか、周囲の血管がまばらになっていないかを見ることで、見え方に関わる部分の血流障害を考える手がかりになります3。
ただし、FAZの大きさには個人差があり、数字だけで重症度は決まりません。
むくみはOCT、出血や網膜の周辺部は眼底検査などで確認します。OCTAが正常に見えても、糖尿病の定期的な眼底検査は必要です。



網膜静脈閉塞症:詰まった先の血流を確かめます
網膜静脈閉塞症は、網膜の静脈が詰まり、その先の血液がうまく流れなくなる病気です。
OCTAでは、網膜の浅い層と深い層について、それぞれ血流の信号が減っている範囲や、血管が途切れている範囲を確認できます4。
血流の届かない範囲や血管の変化は、病気の状態を考える手がかりになります4。治療の間隔は、OCTで見るむくみや視力、これまでの治療への反応などと合わせて判断します。
ただし、広角のOCTAを超広角の造影検査と比べた研究では、血流の届かない範囲が広い目ほど、OCTAのほうがその割合を小さく見積もる傾向が報告されています5。
網膜の周辺部まで含めて病変の広がりを確かめる必要がある場合は、超広角の造影検査が必要になることがあります。

加齢黄斑変性:本来ないはずの血管を探します
加齢黄斑変性では、ものを見る中心の「黄斑」に異常な血管ができることがあります。これを「黄斑新生血管(MNV)」と呼びます。
OCTAでは、この新生血管の中を流れる血液の信号を、造影剤なしで捉えられる場合があります。
複数の研究をまとめた解析では、新生血管を捉える感度は0.83〜0.89程度と報告されています。内訳は、加齢黄斑変性を対象とした解析で0.896、活動性の脈絡膜新生血管を対象とした別の解析で0.83でした7。
感度とは、新生血管がある目のうち、検査で「ある」と判定できた割合です。
一方、新生血管のない目を正しく「ない」と判定できる割合(特異度)は、0.89〜0.96と報告されています6,7。
ただし、新生血管が写った場合も、画像の乱れなどによる誤判定がないかを確かめます。
反対に、写らなかったからといって、新生血管がないとは言い切れません。どちらの場合も、診察やOCTの所見と合わせて判断します。
対象や撮影条件の異なる研究の数値であり、当院の検出率や、一人ひとりの診断を保証するものではありません。
また、まだ水分が漏れていない新生血管が見つかることもあります。
将来の変化に注意して経過を見る手がかりになります。
ただし、血管が見つかっただけで、すぐに注射治療を始めるわけではありません。OCTでの水分の有無、出血、視力や症状などから判断します8。

緑内障:視神経の周りの血管を調べます
緑内障は、目から脳へ情報を伝える視神経が傷み、見える範囲が狭くなる病気です。
OCTAでは、視神経が眼球から出ていく部分である「視神経乳頭」と、その周りの細い血管を調べます。
「乳頭周囲血管密度」は、撮影した範囲の中で、血流のある血管がどのくらいの割合を占めるかを示す指標です。
43件の研究をまとめた報告では、緑内障のある目と健康な目を見分ける指標(AUROC)は、視神経乳頭の周りで平均0.80でした。そのうち、乳頭の周りの浅い層の血管を下側・上側に分けて調べた領域では、それぞれ平均0.86・0.87と報告されています9。
AUROCは1に近いほど見分ける力が高いことを示しますが、「80〜87%の患者さんを正しく診断できる」という意味ではありません。
眼圧、視野検査、OCTで見る神経の厚さなどと合わせて評価します。
緑内障が進むと、神経が薄くなり、OCTの厚さの数値だけではその後の変化を捉えにくくなることがあります。
こうした段階でも、OCTAの血管密度が追加の情報になる可能性が報告されています10。
一方で、近視の強さや画像の鮮明さでも数値は変わります。OCTAは補助的な検査で、すべての緑内障の方に一律に行うものではありません。

ぶどう膜炎:炎症が血管に及ぼした影響を見ます
私自身が専門としてきたぶどう膜炎・眼免疫の診療でも、OCTAが役立つ場面があります。
ぶどう膜炎は、目の中に炎症が起こる病気の総称です。炎症が網膜や脈絡膜に及ぶと、細い血管の状態や、ものを見る中心の働きに影響することがあります11。
- ベーチェット病:網膜の毛細血管が傷んでいないか、血流の信号が少ない範囲がないかを調べます。活動性のベーチェット病で、中心窩の周りの細い血管の変化を造影検査より詳しく捉えた報告があり、深い層でより強い変化が見られました12。
- Vogt-小柳-原田病(VKH):網膜の外側にある脈絡膜の細い血管について、血流の信号が弱くなっている範囲を確認できることがあります。その範囲は治療とともに小さくなり、治療を中止したあと、再発に先立って再び現れた例が報告されています13。
- APMPPEや蛇行性脈絡膜炎など:眼底に白い病変ができる病気で、どの深さに血流の変化があるかを、病気を見分ける手がかりにします11。
- 炎症に伴う新生血管:炎症の病変に異常な血管が合併していないかを確認します11。
OCTAだけで炎症の強さや治療の必要性を決めることはできません。
特に網膜血管炎では、造影剤の漏れを調べる蛍光眼底造影検査が必要になることがあります。

そのほかの病気でも情報が得られます
中心性漿液性脈絡網膜症
中心性漿液性脈絡網膜症は、ものを見る中心の網膜の下に水がたまる病気です。多くは自然に治まりますが、長引いた場合に新生血管を伴うことがあります。
OCTAはこの新生血管を見つけるのに向いています。研究をまとめた解析では、感度92.9%・特異度99.4%と報告されています14。
ただし、複数の検査を組み合わせた判定を基準にした研究では感度78〜81%・特異度96〜97%で、判定する人によって数値に少し差があったことも報告されています15。
長引く場合に治療を考えるうえで、造影検査の回数を減らせる場面があります。

網膜色素変性
網膜色素変性は、光を感じ取る細胞が少しずつ失われていく病気です。
九州大学から報告された73例の研究では、ものを見る中心の周りの血流の密度が、視力や中心の視野(見える範囲)の検査結果と関係していました16。
血流そのものが治療の対象になるわけではありませんが、見え方の変化を考える材料の一つになります。
網膜色素変性では、眼底自発蛍光(FAF)も網膜の状態や変化を調べるのに役立ちます2。視力・視野検査やOCTなどと組み合わせて経過を見ており、OCTAからは血流についての情報が加わります16。
OCTAでわからないこともあります
血流の信号が見えない場所が、すべて「血管が詰まっている場所」とは限りません。
血流が遅い場合や、出血・目の中の濁りで光が届きにくい場合、目が動いた場合にも、血管は写りにくくなります。
また、撮影できる範囲には限りがあります。網膜のむくみなどで層の区切りがずれると、画像の見え方も変わります。
機器や解析方法が違えば数値も変わるため、機器を更新する前後の値だけで、病気の悪化や改善を判断することはできません1,17。
新生血管や炎症がどの程度活動しているかは、OCTA単独では判定できません。
必要に応じて、九州大学病院などの連携医療機関に造影検査を依頼します。
検査の受け方と、結果の見方
OCTAは、医学的に必要と判断した場合に、保険診療で受けられる検査です(算定できる回数に決まりがあります)。
1回の撮影は数秒程度で、痛みはありません。撮影条件によっては、瞳孔を開く目薬を使います。
当院では、症状と診察所見に応じて必要な検査を選びます。
検査の結果は、患者さんの目線の高さに設置したモニターに映してお見せしながら説明しています。
「どこに変化があるのか」「前回と比べてどうなのか」「次に何を確認するのか」。画像と見え方を結びつけながら、今後の方針をお伝えします。
わかりにくい点がありましたら、遠慮なくお尋ねください。
主な参考文献
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更新履歴
- 初回公開:2018年10月29日
- 最終更新:2026年9月22日(病気別の内容を追加し、参考文献を更新しました)
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